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July 15, 2007

『こわい童謡 表の章・裏の章』

『こわい童謡 表の章・裏の章』(東京テアトル:配給)

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 今週末までシネマート六本木にて公開中のパン・ブラザースの『リサイクル 死界』は、人気女流作家が自身の思い描いたホラー小説の世界が別世界として存在しその中へと取り込まれて行くという物語で、彼女の思いつき、想像、そして忘れ去った過去が現実化した異世界のイマジネーション溢れる描写が圧倒的なまでに魅力的であると同時に、特に日本では広く知られている一般信仰の変化形としても興味深かった。その一般信仰が、“言霊”(コトダマ)である。

 “言霊”は言葉にはそれ自体に霊的な力が宿っており、その言葉を発するという行為自体が霊力を発揮するという思想である。これは何も特別なことではなく、自分自身も含めおそらく無宗教である多くの日本人が、神や仏といった特定の信仰対象を持たなくとも、困った時などに漠然と“何か”にすがるかのように、希望を願ってしまうことそしてそれを何気なく言葉にしてしまうことと言ったありふれた日常の一幕からも垣間見ることができる。そんな言葉自体が持つ力を、童謡という道具立てを用いて描いた福谷修監督の最新作が、『こわい童謡 表の章・裏の章』だ。

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 タイトルからも判るように『こわい童謡』は現在公開中の“表の章”、7月28日より公開される“裏の章”という二本の長編作品からなり、勿論それぞれには単独作としても楽しめる趣向を凝らしつつ、その全体像はあくまで二本を見終わってからはじめて浮かび上がってくる仕掛けになっている。さらに“表の章”“裏の章”はそれぞれの作品が、童謡をモチーフとしたチャプター“かごめ かごめ”、“とおりゃんせ”、“はないちもんめ”、“ひらいた ひらいた”“ずいずいずっころばし”“ほたる こい”に分かれており、表の章で起きた惨劇と謎を、裏の章で検証して行くスタイルとなっている。

 舞台となるのは東京郊外にある全寮制の聖蘭女学院。転校生の彩音は、慣れない学園生活故か?奇妙な幻聴に悩まされながらも、所属する合唱部の練習に参加していた。聖蘭学院合唱部は、かつては全国大会で優勝したことがあり、顧問の女教師は当時の優勝時の音源による童謡のレコードを用い、厳しい指導を続けていた。ところがそんなある日、一人の女子部員が屋上から謎の転落死を遂げたことを皮切りに、女子部員達が次々と謎の失踪や不審な死を遂げていく。その死に様は、合唱部が大会用に練習していた童謡の歌詞をなぞったものだった。友人達を失いながら、彩音は一人で事件の謎に立ち向かって行くのだが…。

 “表の章”は、女子高生たちが次々と奇怪な死をとげていくという、ひじょうにオーソドックスな学園ホラーの形態をとっており、また本作の中では、事件は何の解決も見せぬまま終幕を迎える。おそらく勘の良い映画ファンなら、事件の真犯人が誰かは容易に想像がつくかとも思うが、“なぜ”この事件が起きたのかという部分でのヒントは最小限に抑えられておりその真相を看破しうる者は少ないだろう。だが往時のシリアル映画と同様のほぼ同時期公開という公開形態を考えれば、“裏の章”への期待を膨らませつつ、その謎に色々と思いをはせるももまた楽しいではないか。また、舞台となる学園の外観は、中盤まではほとんど画面に出さずに人里離れた閉鎖的な学園というある意味古典展的なシチュエーションを思わせるが、中盤で外観を見せて周囲がごく普通の市街地であることを認知させる演出は、ここでより身近さを感じさせる都市伝説に通じる感覚があり、これは福谷のこれまでの作品とも通じるものだ。

 また“表の章”で展開する惨劇の数々を、観客はヒロイン彩音の視点で体験することになる。それらの描写は、現役女子中・高生も劇場で見れるレベルでという製作サイドからの強い要望があったようで、極端なゴア描写は見受けられず、どこか幻想的な味わいの強いものになっている。それでも『四人の食卓』を想起させる落下し激突する直前の瞬間を延々と延ばしてみせる描写や、イタリアン・ホラーの名匠の遺作の有名な場面を福谷流にリスペクトを捧げたと思しきショック場面など、ジャンル・ファンなら思わずニヤリとさせられる描写が多数登場し、特に前述のショック場面は、全ての真相がわかってから思い起こすと、それ自体にもヒントが秘められていたことに気づかされる。全体的にはオーソドックスな恐怖演出だが、実は個人的にもドキッとした場面があったことはここだけの内緒だ(笑)。

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 ヒロインの彩音には、ホラー映画初主演となる若手実力派の多部美華子。これまでもシリアスな顔は度々見せてくれてくれたが、恐怖に追いつめられていく姿を健気に好演。実際、“裏の章”になると、ファンとしては痛々しい姿が見ていて辛いほどだが。この他、音楽部の部長末紀役に『エンマ』等の近野成美、ルームメイト沙世には福谷作品には前作『渋谷怪談 THE リアル都市伝説』に続いての出演となるしほの涼、と和製ホラークイーンは体験済みの少女たちによる、可憐で凄惨な姿も楽しい。

 一方“裏の章”は、聖蘭学院合唱部12人惨殺事件の5年後、事件により廃校となり誰もいないはずの学校から童謡が聴こえて来るという噂の調査にテレビ番組クルーが乗り込んでくるというもの。そして今回の物語のキーとなるのが、クルーに同行することになった音響分析官、響子の存在だ。

 “表の章”がヒロインが様々な怪異に見舞われて…というオーソドックスな学園ホラーだったのに対し、“裏の章”は日時の経過を画面にその都度提示しつつ、ドキュメンタリー・タッチで描いていくアプローチがとられている。ただドキュメンタリー・タッチと言っても、一時流行った『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のように事態の生々しを優先させるフェイク・ドキュメンタリー・タッチではなく、怪異をあくまで真正面から科学で解明しようとする『ヘルハウス』タイプのアプローチがなされているのだ。響子は過去に起きた事件の記録音声や、その時々の奇怪な音響を、PCで解析していくことで冷静にしかし着実にノイズの中に隠れていた真実を見出そうとしていく。あまり一般的には知られていない、音響分析官の仕事ぶりも、その場面場面の音声や小道具にリアリティが感じられる。これは、実在の分析官への綿密な取材の賜物だろう(取材に応じた日本音響研究所の鈴木松美所長が、監修としても参加している)。

 こうして科学的なアプローチにより明らかにされていく真相とは、幽霊の正体みたり枯れ尾花なのか、それともやはり怪異は怪異なのか?もちろんその真相の実際ににここで触れるようなことはしないが、アプローチはあくまで科学的に、しかしエンターテイメントとしてのお楽しみは忘れずにというエンディングの匙加減は中々楽しいぞ。クライマックスで登場する、マイケル・T・ヤマグチによる造形物も厭な感じで魅せてくれる。

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 ヒロインの音響分析官、響子には、本作が映画初主演となる安めぐみ。僕は本作以外での彼女の活躍を寡聞にも知らなかったが、自身の感情をそれほどには見せずに、謎を追求していく姿はなかなか悪くない。テレビ番組のレポーター役は、やはり『渋谷怪談 THE リアル都市伝説』に続いての出演(でも、もう制服じゃないのね)の石坂ちなみ。津田寛治の番組プロデューサーも、いかにもいいかげんなノリを飄々と演じていて印象的。

 というわけで、学園ホラーであり、事件の顛末を幻想的にヒロインの主観から描いた“表の章”と、SFホラーとでも言うべき科学的なアプローチで怪異の謎に迫る“裏の章”は、やはり多少の時間をおいてであっても、二作品それぞれを見た上で作品世界全体を楽しむべきだ。“表の章”を見て、「これで終わり?」と不満に思った方も、その続きは3年間とか待たずとも、最長でも3週間後には見ることができるのだから。そして“裏の章”を見れば、ここに記したこと以外でも、様々な部分で対になっているに作品の構造を楽しめるのだから。“表”でやめてしまうということは、そのお楽しみの半分以下しか味わえないことに他ならないのだから。

 なお、監督・脚本の福谷は、これまでの作品でも試みてきたように、この2本の映画以外でも本作のメディア・ミックス企画を展開している。既に書店に並んでいる本作の福谷自身によるノベライズ版(竹書房文庫)では、映像化を憚られた部分が活字として復活しているとのこと。僕自身は未だこのノベライズを読めてはいないのだが、同様の位置づけにある『渋谷怪談 THE リアル都市伝説』(竹書房文庫)では、ゴア表現の過激さといった部分に留まらず、映像故の恐怖表現、そして活字故の恐怖表現をそれぞれに追求していたことを強く印象づけられたので、このノベライズも同様の愉しみを期待している。この他にも、書籍メディアでは本作公開前に雑誌に掲載された此本和津也によるコミック版(幻冬舎)があり、また昨年刊行された福谷の『子守り首』(幻冬舎文庫)も、本作に通じる“呪いの歌”をテーマにした都市伝説ホラーだ。

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 その他で、ぢつは個人的に愉しみにしているのが4Dアトラクションという、あの“ウィリアム・キャッスル”の流れを汲む体感型映像アトラクションとして作られる『こわい童謡 迫間(はざま)の章』だ。これは3D上映に、動くシート、エア、スモーク等の趣向を凝らした(でも同時に稚気溢れるギミックの数々による)ホラー体験が味わえるアトラクション用オリジナル・コンテンツだ。主演は合唱部の部長を演じた今野成美ということで、“表の章”のプロローグもしくは描かれなかったサイド・ストーリーとなるものと予想しているがさて?

 ところで冒頭に書いた“言霊”と本作の関連を、ほとんどここでは書かなかったのは、そのアプローチ等について書くことがネタバレに繋がり兼ねないからかもしれないので…ということで、ご理解いただきたい。それぞれの眼と耳をもって、劇場で御確認ください。

(2007年5月23日 午後3時半~ メディアボックス試写室にて)

☆【表の章】2007年7月7日よりテアトル新宿にてレイトロードショー公開中、以後全国順次公開!
都内では8月4日よりテアトルダイヤにてもレイトロードショー公開!
☆【裏の章】2007年7月28日よりテアトル新宿にてレイトロードショー、以後全国順次公開!
都内では8月18日よりテアトルダイヤにてもレイトロードショー公開!

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